私は日本史の採用である。出身は経済学部である。したがって、日本史はもちろん得意であるが、現代社会、政治経済そしてなんとか世界史も大学時代の積み上げかある程度あるので教えることができる。しかし、地理はダメである。大学の教養地理の先生は歴史地理学の先生で、自然地理も人文地理も高校で扱うようなことはいっさい勉強してこなかったのである。
ところが、現赴任校には地理の専門家がいないのである。毎年誰が地理を持つかで教科会議がもめるのがいやで、引き受けて3年目。涙ぐましい努力の日々であった。
そうした中、地理学(高校地理だけ?)のいいかげんさにうんざりすることがある。一応進学校なので、時々生徒が質問をよこすが、そんなときにそうしたいいかげんさに突き当たるのである。今回はアメリカのグレートプレーンズとプレーリーについてであった。生徒曰く「グレートプレーンズとプレーリーの境目はどのへんですか?」そんなことは地図帳にはハッキリしていない。しかも帝国書院の地図帳では、縮尺が変われば位置も微妙に変わっているように見える。資料集には「西経100°の当たり」と書いてあるものがあったが、地図帳とは矛盾している。「おかしい。」そう感じた私は徹底調査をすることにしたのである。
まず、カナダ出身のALTに聞いてみると、「カナダにはグレートプレーンズはない」という。プレーリーは長草平原で、ロッキー山麓のマニトバ州をはじめとする3州が含まれるという(プレーリー3州という言葉まである)。帝国の地図帳ではそこはグレートプレーンズである。ALTは「アメリカではプレーリーのことをグレートプレーンズと言うのではないか?」とのたまうが、アメリカにはプレーリードッグがいる。プレーリーもあるはずである。
インターネット情報もいい加減である。どれもこれも相互に矛盾がある。追いつめられた私は帝国書院に電話してみる以外に方法が無くなった。「調べてみます」と誠意ある対応。最終的な答えは、「グレートプレーンズは中央平原(=構造平野)と隣接するアメリカの地形名。カナダでは使わない。ロッキー山麓を流れる川が形成する複数の沖積平野の総称です。プレーリーは植生・土壌名なので、グレートプレーンズにも中央平原にもかかります。しかし、いつの間にかプレーリーも地域名として使われるようになった」とのこと。ああスッキリした。おっとでは帝国の地図帳でグレートプレーンズの「グ」の字がカナダにかかっているのは何故?問い合わせると「間違いです。次版から訂正します。ありがとうございました。」とのこと。
このことだけではない。地理の学習をしていると相互に矛盾した情報に出会うことが多い。たとえばブラジルのカンポとセラードの関係も資料によって違う。帝国書院の地図ではカンポは一文字づつ□で囲んであるが、セラードは囲んでいない。どう違うのかと調べてみたら、セラードは正式には「カンポ・セラード」で疎林(サバナ)の一種(気候はAw~Cw)。カンポはどうやら「カンポ・リンポ」のことで、セラード南部に接する草原(気候はBS)のことらしい。帝国の地図の表記ではカンポの中にセラードがあるように見えるが、それならばリンポを同じ字体で表記するべきである。それにしても、ほとんどの参考書ではカンポといえば「サバナの一種」としてある。これはどう解釈すればよいのだろうか。
他にもマンガンの生産国順位も違う。東アフリカ大地溝帯が「広がる境界」なのかどうかも本によって違う。中国の「チンリン-ホワイ川ライン」の年降水量は750㎜~1000㎜までいろいろである。もういい加減にして欲しいのである。
しかし、こういう矛盾に出会うと「このやろう何とか真実を解明してやるぞ」とやる気が出るのもたしかなのである。学問的欲求が刺激されるのである。
問題は授業までに結論が出るのかどうか。そんな勝負を日々している毎日である。
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