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飛べないカラス

学校の中庭にカラスがいる。

春先に、中庭の木に親鳥が巣を作り、いつしか3匹の雛が孵った。

ガー、ガー、とうるさいカラス。親鳥が餌を持って帰ってくるたび、それはエスカレートする。

はじめは授業の障りになる、と眉をひそめる人も多かった。中庭は生徒の団らんの場。昼休みの時間、上空の巣からの糞害もあって不評だった。

しばらくして幼鳥といってよいくらいに羽がはえそろった3匹の雛は巣から出た。彼らがレンガ敷きの中庭を我が物顔に闊歩する姿を見せ始めると、彼らはいつしか生徒の市民権を得た。カラスは警戒心の強い鳥。さすがになつきはしないが、強い警戒を示さないことは、生徒たちにとっていじらい姿に映ったようだ。

彼らもいつかは巣立つ。そのためには中庭を囲む校舎の壁を飛び越えなければならない。しばらくして一羽の姿が見えなくなった。

残りの二羽はなぜか体が小さい。中庭に降りたままの幼鳥に、親鳥はせっせと餌を運んでいた。それでもなかなか体は大きくならなかった。

生徒達は「あいつら餌の奪い合いに負けたから体が小さいんや」「はよ巣立たんと気になってしょうがない」などとうわさしあっていた。

何日かが過ぎた。

親鳥は、ある日を境に来なくなった。

この時点で二羽のカラスはまだ水平にしか飛べなかった。中庭の狭い土の部分を掘り返してみみずを食べたり、昼食後の生徒が落としていった弁当のカスを食べたりしていた。

校長先生がこっそりとパン屑をやっているのも、みんなが知っていた。

ある夜中、集中豪雨があった。

翌朝、生徒がみたのは一羽のカラスの遺骸だった。彼は疲れ朽ちたように中庭の隅に転がっていた。

一羽になったカラス。

まだ上には飛べない。

誰かが「家で飼えば?」と言った。しかし、だれも手を挙げる者はいなかった。

「中庭から出してやれば?」という者もいた。しかし、すぐにネコにやられて終わりだろう、という意見が返ってきた。

ここだから安心なのだ、しかしここだから飛べないのかも知れない。

ある日、久しぶりに親鳥を見た。親鳥は校舎の上から「ガー、ガー、」と何度か鳴き、子どもがそれに激しく応えた。親鳥はそのまま去った。

風通しも悪く、とにかく暑い中庭を唯一の世界として、彼は生きていた。

ある嵐の翌日、彼の姿が消えた。

狭い中庭のどこにも姿がない。

どこかへ飛んでいったのだろうか。それとも誰かが連れて行ったのだろうか。

誰にも分からない。

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